NPブログ - Leitmotiv ~言葉・論理・主題連鎖への旅~

2012年01月

 「悲しんだ」「狼狽」「思いぞ屈せし」「深い嘆息」・・・思わぬ幽閉に気づいた山椒魚の「心情語」です。正式の『山椒魚』となって昭和4年(=小林多喜二『蟹工船』や島崎藤村『夜明け前・第一部』が著された年)世に問われるまでの約10年間、実は作者自身の境遇や精神状態も、まさにこのありさまだったのです。
 「大学での指導教授との不和」「休学」「帰郷」「復学してすぐに退学」「親友の急逝(きゅうせい)」「関東大震災」「三度の入社・退社」「可愛がってくれた祖父の死去」など・・・なるほど、外の様子は垣間(かいま)見えるが出口が小さくて出られない岩屋に相応(そうおう)しています。

 ただ、その渦中(かちゅう)でも光明(こうみょう)や覚悟はありました。「小説家としての始動」「同人や師匠との交わり」「節代夫人との結婚」など・・・「いよいよ出られないというならば、俺にも相当な考えがあるんだ」という山椒魚の呟(つぶや)きに当て嵌(は)めてもいいのです。
 「ほの暗い場所から明るい場所をのぞき見する」「小さな窓からのぞき見するほど、常に多くのものを見ることはできない」・・・山椒魚に許されたわずかな希望や安息は、多分に作者にとっては自身の小説世界そのものの特異性と重なっていたに違いありません。
 時代背景とともに左傾化(左翼・共産主義的傾向になってゆくこと)する周囲の文筆家達のような「イデオロギー=(主に政治的な)思想・主義主張」を持たず、プロレタリア文学(労働者階級・社会的弱者や貧者の立場で書かれた文学、プロレタリア⇔ブルジョア、プロレタリアート⇔ブルジョアジー)的な現実描写をどうしてもしたくなかったのです。
 だから、時流に乗ってゆくことに対しては、めだかの一群に喩(たと)えて、「彼等のうちの或る一匹が誤って左によろめくと、他の多くのものは他のものに後れまいとして一せいに左によろめいた」と巧みに皮肉(ひにく)っています。「なんという不自由千万な奴らであろう!」と、嘲笑(ちょうしょう)的な他者批判もぶつけるのです。

 また、小蝦(こえび)が「何か一生懸命に物思いに耽(ふけ)っていた」ことに対して、山椒魚が「くったく(屈託)したり物思いに耽ったりするやつは、莫迦(ばか)だよ」としているのは、作者自身や作品世界の「表裏二面性」なのでしょう。
 こうして、山椒魚は「今にも気が狂いそうで」「もはやがまんがならない」「やくざな身の上で」「ブリキの切屑(きりくず)」となってしまうのですが、これも一時期辿(たど)りついた作者の自画像と解することができます。


【NP解析では、「序論」を素材キーワードorモチーフ(重要素材・中心動機)で、「本論・前半」を具体=例示orサンプルor展開で、それぞれ捉(とら)えています。】

「ワルキューレの騎行」という曲です。早朝に勇ましい気持ちになります。

ブログタイトルの    “Leitmotiv” ライトモティーフ    は、ワーグナーの得意とした作曲手法からネーミングしました。
「小主題(の連鎖)」換言できます。・・・最も顕著(けんちょ)に表れたのは「ニュールンベルグのマイスタージンガー」という曲だそうですが、いつか大阪の福島にあるシンフォニーホールで、生で聴きたいものです。

小主題の連鎖・・・まさに、毎回そうした話題を物語ってゆきたいものです。それは、ひとつの「旅」でもあるのです。ぶらり「独り歩き」もあれば、車窓(しゃそう)の風景にじっくり目を留めながらの「各駅停車」の時もあれば、超特急列車・超高速ジェット・ロケットの時もあるのです。旅にライトモティーフを求め、文章においては「言葉・論理・主題」を探します。・・・ところで、最近は遂(つい)に光速を越える何ものかの現実的存在が明らかになったそうですから、「タイムパラドクス」(時間の逆説、因果律の矛盾)はどうなるの、旅をすると若返るの? と思ってしまいます。

閑話休題(かんわきゅうだい)。

井伏鱒二の『山椒魚』も、小主題の連鎖なんですね。・・・次回、「本論」へ行きます。この「序論」「本論」「結論」というのも、ひとつの典型的な「文章の旅」の形です。

♪♪♪ヘビーローテイション、何度も聴いてみました、ワーグナー閉じます。

2012センター国語の古文・漢文において、問3もしくは問4に注目してみましたか?そこに「抽象」という重要素を見出すことが出来たでしょうか?それは、そこまでと、そこからとの「関係性」(繋がり・連鎖)を物語っていたでしょうか?
古文の平均点が予想外に低かったようですね、センター側は、あれほどの問題文章・字数減で「易化」を目論(もくろん)だはずなのに・・・。おそらくは、この「関係性の見落とし」だと思われます。漢文は逆に、問7の出現に驚きながらも、「抽象」なるものが分かりやすかったのでしょうね。2013の予想や対策を、来たるべき「危急存亡の秋(とき)」には、的確に展開します、期待して下さいね。


『近代文学入門』(双文社出版)より、山椒魚・解説①「序論」
 
 大正八年(1919年)21歳の夏、故郷の広島・福山にて、早稲田大学文学部・フランス文学科1年の本名・井伏満壽二(いぶしますじ)は、「幽閉」という題名の習作(練習や試みのために作った作品)を認(したた)めます。これが、後に名小品(めいしょうひん)とされ、現在の高校教科書にも採用され続けている『山椒魚』の原型です。
 
 激動の時代が過ぎてゆき、人の思いや暮らしの向きが変わり、作者自身も平成5年に天寿を全(まっと)うしました。が、70年以上の長きに渡って『山椒魚』は、その都度(つど)「現代的」であったと思われます。それは「幽閉」という原題にこめられた「人間性の閉塞的状況」が今も昔も変わらず、「擬人・象徴・暗喩性」に富むことが要因でしょう。しかしここでは、さらにもっと作者自身に投影する読み方を示しましょう。

【NPがずっと前に書いた解説文を、今回文体を変え(常体→敬体)、このコーナー用に加筆編集しました。新作同然、続きます。是非、『山椒魚』自体(古い文庫本の方がよい)を一読して、合わせて読んでみて下さい。】

文章において「    」は、どんな時に用いるのでしょう。会話以外の場合を考えてみて下さい。
たとえば先日、センター解析の中で「井伏鱒二」としました。他にも「抽象」「虫素材」など。

1重要なキーワード
2注目すべき強調の言葉  ですね、ひとまず。次の四つのケースも意識して捉えましょう。

3抽象度の高い言葉 
4何かと何かを繫ぐ連鎖の言葉  
5普通とは異なる筆者独自の意味を持つ言葉  
6皮肉(アイロニー・イロニーとも言います。)  1~6は重複(ちょうふく)して用いられます、注意。

そして、切り返しますよ・・・小説においては、会話文に、上の1~6の意味を被(かぶ)せて読んでみるのです。小説問題こそ「論理的」に解かれねばならないと考えます。(合わせて、評論問題を「情緒的」に解くと、とっても面白いですよ、逆説的ですが・・・。こうなると、「情緒=論理」さえも成り立ってくるのです。)

さて、センター試験の解析続報ですが、評論の問4で「生物としての人間の、最大の悲劇」が、問われました。この位置は抽象系の問題だと、すでに端的に指摘しましたが、後方に、「    」の付いた「自他関係」という言葉があるんですね。直前には、~「自己意識」が「集団行動」と真っ向から対立する~という対比があります、これが正解に直結しますね。まさに「関係性」が問われているのです。そう、「関係性の悲劇」なのです。

抽象系の問題とは、具体を経て、象徴的な例や主題へと導く、これ自体が「関係性」という「属性(ぞくせい)」を持つことが明らかです。

しめくくりは、センター小説・問3「お互い」の「深い吐息」と、「相手をとがめるような瞳」 の意味。
「会話」の応酬を、前述の1~6で意識して味わいましょう。そして、設問の選択肢には、「    」は付けられていませんね。でも、解答者自身のイメージの中で「    」を付けるのです。
何に? ・・・前述の1~6の要素を持つ言葉にです。そうすれば、正解選択肢の中の「無慈悲」と「邪魔」が、きれいに浮かび上がって見えるはずです。これもまた人間相互の「関係性」であることは言うまでもありませんね、この設問も抽象系の位置にあるのです。

次回は、「井伏鱒二の『山椒魚』」について、NP解説を読んで下さいね。

大寒(だいかん)ですね。1月6日・小寒(しょうかん)と2月4日・立春のちょうど中間にあたり、いちばん寒い頃なのでしょう。が、地球温暖化は別にしても、実は小寒の方が寒いという説もあり、「小寒の雪が大寒に溶ける」という格言があるようです。これは、~ものごとの巡りは順序通りには進まないものだ~とも解釈できます。

しかし小寒→大寒→立春には、ひとつの連鎖があります。たぶん、大寒には「春の兆し」があるから、先の言葉も生まれたのでしょう。小寒は冬至を受け、立春は雨水(うすい)さらに啓蟄(けいちつ)へと繋(つな)がります。

素材「環境・生命維持」「個体」→具体例(たとえば)→先行抽象「複雑な構造」「自己意識」→抽象『生物としての最大の悲劇』→象徴例「自我境界」→主題【生命の気配】

これが、先日のセンター試験出題の評論、木村敏さん(医学者・精神科医。臨床哲学も入っているようです、臨床哲学は大阪大学の鷲田清一さんが有名ですから、いずれ問題実例でふれる予定です。)の出題文章についての連鎖です。最低限、残すべき言葉は、これだけです。そして、素材は問2Aで、先行抽象は問3Bで、抽象は問4Cで、象徴は問5Dで問われました。パターン通りなのです。主題は、問6の「論の展開」で、選択肢の部分品になってしまいました。しかも、「生命の営み」というアバウトな言葉の方が重視されています、なんだかなあ・・・です。遡(さかのぼ)って問1は漢字力・語彙力ですから、実践問題で読解力を鍛えながら、必ず意識して身につけましょう。

センターのみならず、国語問題の典型は以上です。こちらは順序通りに進みます。
雪が溶けるように、問題が解けたらいいね。

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