NPブログ「Leitmotiv 」言葉・論理・主題連鎖への旅

2012年04月

山本文緒(ふみお)さんの「近未来小説」のタイトルですが、今まさにその時季です。

花散って 水は南へ 流れけり (正岡子規)

大きな句ですね。
彼は東京帝国大学予備門(後の東大教養部)に入る前にすでに喀血(かっけつ・肺病などで吐血すること)していたらしく、升(のぼる)という名前よりも、子規(しき=ホトトギス・血を吐くまで鳴き続けると言われる鳥)という雅号(がごう・芸術家や俳人歌人としての風雅・ふうが=風流で雅・みやび  な名前)の方を主に使うようになりました。

花も水も「命」の暗喩ですね、大きな命が絶えようとして、また消えようとしているのでしょう。
南は、子規の心が立ち向かう先でしょうか、暑い熱い季節を、彼は最後に生き抜いて、秋(1902年・明治35年9月19日)に、数え35歳の若さで亡くなります。NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」での、子規役・香川照之さんのプロ根性の凄さを、涙溢れずには見られない演技を、NPは復(ま)た想い出します。

この句は、次の明(みん)代初期の漢詩人・高啓の五言絶句(ごごんぜっく・一句=1行が5字で四行の漢詩)を踏まえているようです。白文・書き下し文・口語訳文 の順に示します。

「尋胡陰君」
渡 水 復 渡 水
看 花 還 看 花
春 風 江 上 路
不 覺 到 君 家

「胡陰君を尋ぬ」
水を渡り 復た水を渡り
花を看(み) 還(ま)た花を看る
春風  江上の路
覚えず 君が家に到る

「コイン君を訪ねる」
川を越えまた川を越え
花を見てまた花を見て
春風の中 大河のほとりの道
いつの間にか君の家に着いた

*白文・二句目末尾字の「花」と四句目末尾字の「家」が、音読み「ka」で「 a 母音」の「押韻(おういん)・音読みの同じ発音母音によってリズム感を出すこと」になっています。

大河(たいが)は季節同様に「南(=朱夏・しゅか)」へと流れていたのです。桜花に限らず、花(命)は必ず散って、川の流れが行きつくようにいつかは大きな海(後世・ごせ=死後)へと還(かえ)ってゆきます。輪廻転生(りんねてんせい=生まれ変わり、巡り繰り返される生命)を信じながら、人は命を削って日々を全(まっと)うしてゆくしかありません・・・。

はるか南の大きな河のほとりの家、それはきっと幻(まぼろし)です、しかし会いたい人、あなたはそこにきっといるのでしょう。・・・人生で、生きているうちにもっともっと話しておきたかった人がいます、失ってからしか気づくことが出来ません。

花素材」は「人の命(の美しさ哀しさ)・輝ける(盛衰の)時」を、「水素材」は「変化流動」を感じさせてくれます。ゆえに水もまた命に通じます。

春は、とりわけ「花・命・水」 を切なく感じさせてくれる季節ですね。
『落花流水』をあらためて読んでみたくなりました。
7歳で登場する手毬(てまり)という名の主人公の半生・・・だったかな、未来に亘(わた)って流れる彼女(花)の命、変幻(へんげん・不思議な小説です)の歳月が描かれているのです。

春爛漫(はるらんまん)にはまだ少し寒い朝です。ある「知人」からいただいた「ベゴニアの鉢植え」が窓際を僅(わず)かに彩(いろど)っている、そんな仕事場へ行きます。

4月1日付け問題は・・・次の言葉の読みと、意味(簡潔に、もしくは具体的に)をそれぞれ答えなさい。・・・でした。

①堆肥 (たいひ・わらや葉を積み重ね腐らせて作った肥料)
②上巳 (じょうし・陰暦3月3日の桃の節句・雛祭)
③鼎 (かなえ・a 古代中国の三本脚で青銅の食器、b 帝位や権威の象徴)
④安普請 (やすぶしん・a 安い費用で家を建てること、b 粗末な家)
⑤夏炉冬扇 (かろとうせん・時季はずれで役に立たないこと)
⑥大和撫子 (やまとなでしこ・日本女性の美しい呼び方)
⑦狂言回し (きょうげんまわし・a 芝居で、脇役ながら粗筋や主題解説に重要な役柄のこと、     b 表面には出ずに物事を進行させる役割の人物)
⑧春一番 (はるいちばん・立春から春分の間で最初に吹く強い南風)
⑨大団円 (だいだんえん・a 演劇小説における最後の場面、b 問題ごとがめでたく解決する場面)
⑩八代集 (はちだいしゅう・古今集から新古今集までの八つの勅撰和歌集のこと)

読み・意味それぞれ各1点、合格点は・・・7割かな。

春ですね。次の超短詩「春」二編の意味するところは・・・NP推理考察によると・・・


    安西冬衛

てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。

⇒⇒昭和2年に着想され、昭和4年に詩集『軍艦茉莉』で発表された。時代背景を鑑(かんが)みると、「てふてふ」はアジアの盟主(めいしゅ=支配者)として大陸進出を狙う「大日本帝国」、その孤絶感・不安定感を読み取ります。


    (同作者・同詩集収録、同題名の連続詩)

鰊が地下鉄道をくぐって食卓に運ばれてくる。

⇒⇒当時在住していた中国・大連には地下鉄道はない、東洋初の地下鉄が東京に出来た頃なので、食卓も都会人の集いのイメージ。とすれば、「春告魚」の鰊(にしん)は、日本の栄華繁栄の「春に花を添えるような」明るい驕(おご)りの気分と、地下鉄道ゆえの(時代の裏面=陰である)暗さ・冷やかさの「内在対比」を感じ取ります。


***さらに、北川冬彦の有名な二行詩を二つ、合わせて鑑賞すると・・・

   
 椿   北川冬彦

女子八百米リレー。彼女は第三コーナーでぽとりと倒れた。


落花。

⇒⇒⇒詩集『検温器と花』(大正15年)所収、何の先入観も持たず、ズバリ・・・「第3走者」の「曲がり角」における転倒、しかも「椿の落花のように潔(いさぎよ)い唐突な」転倒は、継続的な事柄における悲劇的な一瞬の「カリカチュア」(人や物の特徴を誇張して可笑しく描いた画、戯画、風刺画)。おそらくは、マクロ(巨視的)には「日本国家」、ミクロ(微視的)には「作家の大切な人」

 ラッシュ・アワア   (同作者、通し番号で1の一篇に「椿」、5の一篇に「ラッシュ・アワア」。)

改札口で

指が  切符と一緒に切られた

⇒⇒⇒明らかな「連鎖」として、「椿」の悲劇は、さらに悲喜劇性を帯びて不気味に展開する。ユーモラスでは済まない「巻き添え」「巻き込み」の「怖さ」。おそらくは「椿」も「ラッシュアワー」も同質。スピーディに曲がりながら、危うく慌ただしく進行する「暗黒時代」への「警鐘(けいしょう)」と解釈できよう。





【転の章】

Ⅰ 「私」の「転」⇒
  「転全体」がすべて
  起承転結の「起承転結」

三か月の空白・親・カルト
千葉の実家・宗教・借金 
嘘の世界・大学中退までさせて・進学三年目
弁護士の卵のフケかげん・身内・プライドと理想

壊滅的犠牲・心が寒く・決死の体(てい)
父母奪還・仕事と気力・フォロー
後期単位認定試験・再履修・春にはキャンパスに
 「壊滅的犠牲?」・3月11日が来る

千葉旭の実家・強烈な揺れ・安普請の我が家
木製の書棚・金魚鉢は割れ・嫌な音を立てる玄関ドアを開け
近くのコンビニ・信号点滅・水売り切れ
麦茶ボトル3本・店員も放心状態・遠くでサイレンの音が錯綜

極めて非常時、恐らくは・麦茶を金魚たちに溢れるほど注ぐ
生きろ、生きよ・脱カルトシンドローム両親・姿を消していた
沿岸部津波・東北?違う千葉旭・それでも壊滅的犠牲、被害
ずっと後で知った・私・何かに駆られるように東北に
 

Ⅱ 「わたし」の「転」⇒
  「」との「重複対比(類比)」・・・大きな文章リズム(連鎖)の相違
  「序破急」の三部構成、それぞれは「起承転結」

新宿歌舞伎町・真昼間・カフェスイーツのバーに一人
あの時ほど怖くは感じなかった・6才・大阪茨木
ものすごい揺れ・バブルマンションの我が家・スチール本棚倒れ金魚鉢は割れ
イヤな音を立てる玄関ドアを開け・近くのコンビニ・信号は点いたり消えたり

水、売り切れ・麦茶ボトル1本・店員さんはなにかを気にしながら
走って戻る・遠くでサイレンの音がいくつか・こわい、何が起こったの
家に入る・麦茶を金魚たちにジャボジャボ注ぐ・生きててね
何をしているの、わたし・シューキョーの集まりか、両親はいなかった

まったく覚えていない・本当はどこにいるのか・一体何才なのか 
東北?違う、新宿、ちがう、茨木・壊滅的被害はない。
ここはどこ・わたしは誰
大阪へは帰らなかった・わたし・別のどこかに向かったような気もする


*「序破急」の「破」を2構成で読み取れば、結局「起承転結」になる。
  この作品の仕掛け(トリック)は、2つ(以上)の重要素の「重複」と「相違」。物語・小説における「時・場・人・物・事」という五大要素が、「私」と「わたし」とにすべて揃っていて、また「重複・相違=錯綜」している。そこに総括的に最重要の「情」が流れ、それらの「伏線」が次の「結」で明らかになってゆく。また、傍線部は「精神錯乱症状」・「二重人格的存在」を露(あら)わにしつつある。

**「春物語」は、東京を舞台とする恋愛小説の予定でした。でも、いつまでも寒く、そして一気に暑くなりそうな昨今、いっそ「二季物語」にNC(ネーム・チェンジ)しようと思っています。次小説の連載開始延期・・・そのお知らせでした。

 

【承の章】

戻る・揺れる・実家・トラブル
優しい父母・忘れたい・別れ・親も男も自分も
⇒具体的な進展①・・・作者の未必の故意(秘密の意図)としては、
親のことも全て「虚」であるというもうひとつの結末を用意していた。
(「カーテンコール」が無く、実現せず。)

キャンパス・学園祭実行委員長・五月
東北震災関連・超氷河期の就職難
夏休み直前・身売り済み⇔就活の愚痴
喫茶店→ネットカフェで徹夜
⇒進展②・・・時・場・人・物・事を殊更(ことさら=格別)に意識。
次段落との対比(主に↑素材的なもの)を鮮明に。

寒い・A 春一番VS暴風雪(デタラメ) ・ B 卒業VS留年
卒論合評会・卒業式・謝恩会・卒業旅行・卓球・温泉旅館
⇒③・・・2012年、春一番が上手く吹いてくれなかったが、
逆に傍線部のAB二つの「対等対比」(AとBは同化イメージ)
に繫ぐことが出来た。


【間奏曲】
今年2月の「週刊文春」のスクープを指しているが、それにしてもこの記事内容は、「実」として「抹殺(まっさつ)」されたのだろうか。あるいは記事自体が「虚」だったのだろうか。


*ところで、作品文章全体で「言葉の遊び」を随所に入れています、何ヶ所気づいていただけましたか。慣用句やことわざ・故事成語などは、やはり沢山知っていると、良し悪し(よしあし)は別として楽しめますね。

**もう、四月中旬になるのに、いつまでも寒いです。桜満開の清水寺に先日行きました。椿や梅、木蓮(モクレン)も同居していました、不思議な季節感。いまだ「冬物語」の名残話(なごりばなし)が続くように、今年の桜は寒さゆえにまだ少し楽しめそうです。



 
 

 

 

『冬物語2012』の言葉連鎖   NP

【プロローグ・序章】
①立春過ぎ・寒さ=こころ    ⇒ 季節の推移と心情を重ねる。
大学・留年・単位・卒論    ⇒ 素材・キーワードを思わせる。
③不本意・やり直し⇔卒業・謝恩会  
                    ⇒ 対比的状況   
④下り坂・凍えた感じ・サクラたちは枯れ木のまま 
                    ⇒ 情景描写と心情・暗喩

【起の章】

冬本番・暖房の効きの悪い大学図書館・相談 
                   ⇒ 発端となる時・場・人・物・事
親に押し付けられた・宗教・抜ける・親がその団体の職員 
                   ⇒ 素材・モチーフを思わせる。
⑦関西・実家・ここ遠い     ⇒ 場の問題性・遠隔性
⑧弁護士の卵・脱会届・カルト ⇒ ⑤⑥⑦打開への展開
⑨お金・無料           ⇒ ③の「謝恩会費用」から繋がる要素
⑩卵⇔親玉、フケ顔・貫禄⇔有名人でなくても 
                   ⇒ 新登場人物の設定
⑪建物・集会所          ⇒ ⑦の閉塞性
⑫オイワイ・鍋パーティ・意気投合 
                   ⇒ +の心情・状況展開
⑬卵⇔ヒナ(のまま)・育たず・別れ⇔バレンタイン 
                  ⇒ -の心情・状況展開
⑭千葉・親元・遠ざかる     ⇒ ⑦から繋がる場の問題性・対比性
⑮春・キャンパス・四季がひと巡り 
                   ⇒ ⑭から推移する時と場

【起と承の迫間】

⑯大震災・ボランティア・揺れ・収まる 
                   ⇒ 新素材提示と比況(比喩的状況) 
     
 

   
 


 
 

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