廃市:はいし
昭和35年(1960年)7月刊行で
単行本の巻名となった第一短編
55頁余の作品で福岡柳川が舞台。
ライティングデスクの硝子扉内
から呼んでいるような声がして
多分十数年ぶりにじっくり読書。
エピグラム(本文前の詞書き)に
……さながら水に浮いた灰色の棺である。
北原白秋「おもひで」
とあります・・・廃市は福永の造語かと。
男子大学生が卒論を書く勉強と避暑の為に
水郷・柳川(作中には「その町」とのみ…)
に滞在した一か月間の出来事(最後は悲劇)。
エピグラムで作品舞台も明らか…
北原白秋(明治18年生誕で同34年
16歳時に柳川大火)は無論のこと
夏目漱石(『こころ』の表現手法)
芥川龍之介(重要登場人物の設定)
太宰治(上記人物状況設定や文体)
堀辰雄(抒情的ロマネスク*表現)
川端康成(美しい日本の哀愁描写)
…等との関連性・系譜性を感じ
これが所謂「日本文学」かと…。
ミステリーとしても最後の一頁
の「謎解き」は情感たっぷりで
東野圭吾さんに通じるものも…
福永は探偵小説の愛好家でした。
(創作『加田伶太郎全集』一冊)
さらには作品鑑賞や評価を繙くと…
映画『廃市』(1983年:大林宜彦)
と合わせて…
名画『ヴェニスに死す』(1971年
:ルキノ・ヴィスコンティ監督)
に因んでは…
オリジナルサウンドトラックの
グスタフ・マーラー交響曲第5番
等々どんどん
文学以外へ日本以外へとベクトル
リンクが広がり最初は面白くも…
「知っておくべしシンドローム」
に襲われ…逆に不自由になります。
読み返してみてしみじみと思った
ことは…かつての読みは実に浅薄
で何にも分からなかった気付かな
かった…「読めていなかった」か。
でも同時にこれは「再読の醍醐味」
文化祭振替代休・午前中の過ごし
方として日本文化を少しく考える
意味ではよかったかなと独り言…。
水郷はやがて運河になるでしょう
舟に乗り運河を越えて旅に出たく
なりました…秋には読めなかった
一冊を携えてゆくのもいいですね。
三日後は立冬…読書の冬もいいね。
秋の日に寝転んで読む舟の上
運河越え読む一冊に冬の濤(なみ)
冬よ来い相応しき作家と籠る
(宏)
*ロマネスク(英: romanesque)・・・
建築、彫刻・絵画・装飾、文学の様式の一つ。建築用語および美術用語としては、10世紀末から12世紀にかけて西ヨーロッパに広まった中世の様式を指し、文芸用語としては、「ロマン(仏: roman)」から派生し、奔放な想像力によって現実の論理・事象の枠を飛び越えた幻想的な性質を指す。
(Wikipediaより編集)