(「二十」は誇張法ではなくて、こんな人は意外に多いと思いますよ、すぐに読めるからね。)

たとえばデレク・ハートフィールドですね。
この架空の作家を、
村上春樹はなぜ、
作品冒頭と、
「あとがき」(小説自体の末尾)とで、
詳細克明に語らねばならなかったのか。

また主要登場人物の「鼠」(ねずみ)ですね。
主人公の「僕」にとって、
一体どんな意味合い・位置付けで、
姿を現して又姿を消すのか。
次作以降での再登場がすでに見えていたのか。

さらに4本指の「彼女」ですね。
体に特徴のある女性の描き方において、
セクシュアリティ(性活動全般)や、
ジェンダー(広義での性差)を盛り込むことで、
作者は何を企図しているのか。

などなど・・・。


昨日一作通しで読み返してみましたが、
本当に何度読んでも興味深くて面白いし、
「芥川賞選考委員」たちの途惑いと、
憮然たる拒絶反応とが想像できます。 

「芥川賞史上・最大の汚点(失敗)」と言われていますね、
村上春樹氏に芥川賞を授与しなかったことは。
ちなみに二つ目は戦前に戻りますが太宰治に与えなかったことかな、
選考委員で後のノーベル文学賞作家(1968年)川端康成が反対しています。

世界のハルキ・ムラカミは、
デビュー作の「風の歌を聴け」が第81回(1979年上半期)、
続いて「1973年のピンボール」が第83回(1980年上半期)の芥川賞候補にあがったものの、
いずれも選から漏れています。

当時の選考委員だった、
これも後のノーベル文学賞作家(1994年)大江健三郎氏は、
一回目は反対し、
二回目は認めたことも伝わっています。

三回目は、
対象作品が、
初期三部作の最後にあたる『羊をめぐる冒険』になるはずでした。
しかし、
芥川賞の対象要件を大幅に越えた長編物語だったのと、
すでにベストセラー作家になってしまっていたこととでノミネート自体から外れました。

・・・・・・

昨日の職員室で、
「『海辺のカフカ』を中三でやりますよ。」と言ったら、
『東大の現代文25カ年』(教学社)の著者である桑原聡先生が、
「えええ~」と驚かれていました。
近々一緒に「あそぶ」ことになっているので、
先生の読解のツボもまたお聞きしようと考えています。

その桑原先生と言えば・・・、
『風の歌を聴け』の中で、
上記「彼女」が「僕」に向かって投げつけた終盤のセリフをオリジナル問題化しています。

最初お聞きした時に「えええっ」と思って分からなかったのを覚えています、
とても痛快な問題です。

現行の講談社文庫で言えばp134です。


「嘘つき!」

と彼女は言った。
しかし彼女は間違っている。僕はひとつしか嘘をつかなかった。


・・・とあるが「ひとつ」の「嘘」とは何か答えよ。

・・・という設問です。
もちろん彼女と僕の台詞のやり取りは、
その直前の2頁に事細かく載っていて、
僕のセリフのいずれか一つだけに嘘があるのです。

今度のあそびの際に、
あらためて「分かりやすい」解説例をうかがっておきますが・・・。

・・・・・・

皆さん、
分からないことを嫌がりますね。

分かりにくいことはわるいこと、
分かりやすいことはいいこと、
本当にそうなのでしょうか。


「分からないことをもっと楽しむ」ような一日でありますように。