筑摩書房の高2用「精選 現代文B 改訂版」教科書は
次の箇所で終わっています

朝日新聞連載「四十八」回目の末尾
【青空文庫より】

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手紙の内容は簡単でした。そうしてむしろ抽象的でした。自分は薄志弱行で到底行先の望みがないから、自殺するというだけなのです。それから今まで私に世話になった礼が、ごくあっさりとした文句でその後に付け加えてありました。世話ついでに死後の片付方(かたづけかた)も頼みたいという言葉もありました。奥さんに迷惑を掛けて済まんから宜しく詫(わび)をしてくれという句もありました。国元へは私から知らせてもらいたいという依頼もありました。必要な事はみんな一口ずつ書いてある中にお嬢さんの名前だけはどこにも見えません。私はしまいまで読んで、すぐKがわざと回避したのだという事に気が付きました。しかし私のもっとも痛切に感じたのは、最後に墨の余りで書き添えたらしく見える、もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろうという意味の文句でした。
 私は顫(ふる)える手で、手紙を巻き収めて、再び封の中へ入れました。私はわざとそれを皆(みん)なの眼に着くように、元の通り机の上に置きました。そうして振り返って、襖に迸(ほとば)っている血潮を始めて見たのです。


(これに続く「四十九」
の冒頭は以下のように
なっています…無掲載)


四十九


「私は突然Kの頭を抱えるように両手で少し持ち上げました。私はKの死顔が一目ひとめ見たかったのです。しかし俯伏しになっている彼の顔を、こうして下から覗き込んだ時、私はすぐその手を放してしまいました。慄(ぞっ)としたばかりではないのです。彼の頭が非常に重たく感ぜられたのです。私は上から今触った冷たい耳と、平生に変らない五分刈の濃い髪の毛を少時(しばらく)眺めていました。私は少しも泣く気にはなれませんでした。私はただ恐ろしかったのです。そうしてその恐ろしさは、眼の前の光景が官能を刺激して起る単調な恐ろしさばかりではありません。私は忽然と冷たくなったこの友達によって暗示された運命の恐ろしさを深く感じたのです。
 私は何の分別もなくまた私の室(へや)に帰りました。そうして八畳の中をぐるぐる廻り始めました。私の頭は無意味でも当分そうして動いていろと私に命令するのです。私はどうかしなければならないと思いました。同時にもうどうする事もできないのだと思いました。座敷の中をぐるぐる廻らなければいられなくなったのです。檻の中へ入れられた熊のような態度で。
 私は時々奥へ行って奥さんを起そうという気になります。けれども女にこの恐ろしい有様を見せては悪いという心持がすぐ私を遮(さえぎ)ります。奥さんはとにかく、お嬢さんを驚かす事は、とてもできないという強い意志が私を抑えつけます。私はまたぐるぐる廻り始めるのです。
 私はその間に自分の室の洋燈ランプを点けました。それから時計を折々見ました。その時の時計ほど埒(らち)の明かない遅いものはありませんでした。私の起きた時間は、正確に分らないのですけれども、もう夜明に間もなかった事だけは明らかです。ぐるぐる廻りながら、その夜明を待ち焦(こが)れた私は、永久に暗い夜が続くのではなかろうかという思いに悩まされました。

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もう先週末になり
ますが一クラスに
この続きの部分を
かなり長くそして
『こころ』全体の
連載末尾の数回分
を朗読しました📖


思いが込み上げてきて
まともに読めません(涙)

この作品はやはり凄い
そう思えて体が「顫える」

参りました~今までに
何度かこの現象はあった

浅田次郎『蟬の声』や
湯本香樹実『ポプラの秋』

生徒諸君はそのたびに
困ったもんだ…と退いた

担当者だけの自己満足
という図柄だったのです

おそらくは…しかし…
わずかでも一緒に感動を

そうです昨今のそれと
明らかに一線を画する…

わずか数名のために…
自分は朗読できて幸せで

今でもよかったと一人
感じているのです本当に

もう教員生活の授業の
その中で…「こころ」を

こんなふうに読む機会
それは二度とないような

そんな気持ちが強くて
受験学習とは真逆の地平


そこに今 NPはいます
記憶して下さい。私は…

(続きます💦)